前立腺疾患とは
前立腺は、膀胱の下部に位置している、クルミ程度の大きさの臓器です。「前立腺液」を分泌し、精子に栄養を届けます。女性にしか子宮がないように、前立腺は男性にしかありません。ですので、前立腺の病気、つまり前立腺疾患もまた、男性にしか起こり得ません。
この前立腺によく見られる疾患として「前立腺肥大症」「前立腺炎」「前立腺がん」が挙げられます。いずれも排尿がうまくできない(頻尿、突然の尿意、尿失禁、尿が出づらい)症状が共通しています。前立腺の腫れにより、尿道が狭くなるためです。
前立腺肥大症
一般的に、男性は加齢と共に尿が出にくくなります。その原因としてもっとも多いのが、前立腺の肥大「前立腺肥大症」です。55歳以上の日本人男性の約2割が、前立腺肥大の傾向があることが分かっており、非常に身近な疾患だと言えます。
肥大した(大きくなった)前立腺は、尿道を圧迫して尿を排出させにくくします。肥大化が進むと、膀胱に残る尿が増え、感染や腎不全などの病気につながることもあります。
症状
- 発熱
- 排尿の回数が多い(目安:1日8回以上) 突然、我慢できないほどおしっこがしたくなることがある
- 我慢できずに、漏らしてしまうことがある
- 夜中、排尿のために何度もトイレに行く
- 尿が出にくいと感じることがある
原因
前立腺の肥大の原因は、未だはっきりと解明されていません。しかし、加齢による男性ホルモンの分泌量が減ることで、ホルモンバランスが乱れて起きているのではないかと言われています。
検査
前立腺肥大の検査には、以下のようなものがあります。
直腸診
肛門から、前立腺の大きさ・硬さを確認します。
IPSS
「IPSS(国際前立腺症状スコア)」による自覚症状のセルフチェックです。10点以上の場合や、それ以下でもご不安なときにはご相談ください。
血液検査
PSA(前立腺特異抗原)などの血液検査により、前立腺がんとの識別を行います。
腹部エコー検査
超音波により、前立腺の大きさ・形を確認します。
尿流量測定
測定機能付きの便器への排尿により、自動的に尿流量を記録し、分析します。
治療
基本的に、まずは薬物療法によって、前立腺肥大を抑制し、スムーズな排尿の促進などを行います。
薬粒療法で十分な効果が得られない場合には、内視鏡による手術や、尿道ステント留置などを行います。
※尿道ステント留置とは
筒状の支持物を尿道に入れておくことで、狭まった尿道を広げる処置です。
前立腺炎(急性前立腺炎/慢性前立腺炎)
前立腺炎は、大きく「急性前立腺炎」と「慢性前立腺炎」に分類されます。
症状
急性前立腺炎
- 発熱
- 食欲不振
- 尿が出にくい
- 排尿痛
- 残尿感
- 頻尿
- 尿の濁り
- 血尿
- 尿道からの膿
慢性前立腺炎
- 頻尿
- 残尿感
- 尿が出にくい
- 排尿痛
- 尿漏れ
- 尿道の違和感
- 下腹部、脚の付け根、会陰部(肛門と陰嚢の間部分)の痛み・違和感
- 睾丸の痛み、不快感
- 陰嚢の痒み
原因
急性前立腺炎
主に、尿道から侵入した細菌が前立腺に感染することが原因とされています。
慢性前立腺炎
毎日のデスクワーク、長時間の乗り物移動、長時間の車・自転車・バイクの運転など、前立腺への刺激が原因とされています。また、疲れ、ストレス、過度の飲酒、冷え症などによって抵抗力が低下しているときも、注意が必要です。
検査
急性前立腺炎
尿中の細菌・白血球の有無を検査し、必要に応じて血液検査を行います。
また、肛門からの直腸診による検査を行うこともあります。
慢性前立腺炎
尿中の細菌・白血球の有無を検査し、直腸診などを行います。
また、クラミジア感染症による炎症が疑われる場合には、クラミジア検査も行います。
治療
急性前立腺炎
高熱で緊急を要すると判断した場合には、入院の上、点滴や抗生剤の投与が行われます。
症状に安定が見られる場合には、経口薬などで、通院しながらの治療となります。
慢性前立腺炎
基本的には、抗菌剤と前立腺の腫れを取り除く薬での治療が中心となります。
慢性前立腺は、治療に数か月を要することも珍しくありません。適切な治療を継続することが重要です。
前立腺がん
前立腺がんの特徴に、特有の症状の少なさがあります。 前立腺肥大症や前立腺炎と似た症状(排尿障害など)はあるものの、これといった分かりやすい症状はありません。「最近おしっこが出にくいな」と感じて検査を受けると、前立腺肥大でも前立腺炎でもなく、前立腺がんだった、というケースは珍しくありません。
2000年前後を境に、前立腺がんの患者数が急増しています。50歳を過ぎている方、また排尿のし辛さを感じている方は、検査を受けられることをお勧めします。
症状
- 頻尿
- 排尿困難
原因
前立腺がんの原因のメカニズムは、未だ解明されていません。ただし、危険因子(発病の可能性を高めるもの)は他のがんと同じように存在しています。
前立腺がんの危険因子には、以下のようなものが挙げられます。
- 加齢
- 遺伝(特に父・兄弟)
- 生活習慣(不規則な生活習慣、喫煙、飲酒)
検査
血液検査、直腸診、エコー検査などを行います。
その後、前立腺の組織の一部を採取し検査する前立腺生検により、確定診断を行います。
当院では、日帰りで前立腺生検を行っております。検査は約5分程度で終了します。
(たいていの病院では、一泊もしくは二泊の入院が必要です。)
治療
前立腺がんの治療では、進行の程度によって治療法を使い分けます。
放射線療法や手術の他、ホルモン療法を行うこともあります。